本記事の概要
- 「野菜嫌い」を克服する新しいアプローチ
- 多摩・八王子に伝わる郷土料理と、その土地ならではの食材の歴史を親子で楽しむ方法
- 子どもの好奇心を自然に引き出すコツ
- がんばりすぎない、年に数回でも効果的な「ゆるい食育」の実践法
- 地域の食文化を通じて、子どもの自己肯定感と「ふるさとの記憶」を育む意味
「ピーマン嫌い」が一口食べた、あの春の日

「ママ、これ何?」
娘が指差したのは、食卓に並んだ見慣れない緑色の野菜。春先に八王子の直売所で見つけた「のらぼう菜」でした。
いつもなら「緑の野菜は嫌い」と言って箸をつけない娘が、その日は違いました。
「これはね、昔から多摩で春を待つ人たちが食べてきた特別な野菜なんだよ。江戸時代の大飢饉のとき、この野菜がたくさんの人の命を救ったんだって」
そう話すと、娘は「えー、すごい!」と目を輝かせました。そして、おそるおそる一口。
「…甘い」
それから、娘は黙々と食べ続け、完食してしまいました。
「食べなさい」ではなく、「なぜこれを食べるのか」を伝えることが、子どもの心を動かすのです。
「ちゃんとした食育、何もしてない…」と不安なママへ

「栄養バランスを考えて野菜を出しても食べてくれない」
「食育って何をすればいいのかわからない」
「他の家庭はもっとちゃんとしてるのでは…」
そんなふうに、自分を責めてしまうことはありませんか?
でも、食育は決して難しいものではありません。いつもの夕食に、ほんの少し「物語」をそえるだけで、子どもの反応は驚くほど変わります。
「完璧な食育」を目指さなくて大丈夫。年に数回、郷土料理を一品だけ加えることから始めましょう。
多摩エリアに息づく「知らない」食文化の宝庫

私たちが暮らす八王子・多摩地域には、意外と知られていない豊かな食文化があります。
これらは単なる料理ではなく、地域の歴史や昔の人々の知恵が詰まった「生きた教材」です。
多摩の郷土料理・伝統野菜ガイド
| 食材・料理名 | 特徴 | 子どもに話したい物語 |
|---|---|---|
| のらぼう菜 | 春に出る菜の花の仲間。甘みが強く、茎まで柔らかい | 江戸時代の飢饉で人々を救った「命の野菜」。どんなに寒くても枯れない強い野菜 |
| 八王子のうどん文化 | 市内にうどん店が多い独特の食文化 | 昔、織物を作る職人さんたちが忙しくて、さっと食べられるうどんを愛用した |
| すいとん | 小麦粉を練った団子の入った汁物 | 戦後、お米が少なかった時代にみんなを助けてくれた「おなかいっぱい料理」 |
| 多摩川梨 | みずみずしく上品な甘さの梨 | 多摩川のきれいな水と太陽の光をたっぷり浴びて育った「多摩の宝物」 |
これらの食材は、直売所や地域のイベント、「広報はちおうじ」で紹介される農家の販売所などで出会えることがあります。
今日からできる!「物語型食育」の3ステップ

難しいことはありません。いつもの夕食準備に、少しだけ「会話」と「体験」をプラスするだけです。
【ステップ①:知る】クイズ形式で興味を引く
食事の準備中や買い物中に、簡単なクイズを出してみましょう。
効果的な声かけの例:
- 「ねえねえ、なんで八王子にはうどん屋さんが多いか知ってる?」
- 「この『のらぼう菜』って、昔どんなすごいことをした野菜か、知りたい?」
- 「このお野菜、〇〇ちゃんのおばあちゃんも子どもの頃に食べてたんだって」
正解することよりも、「えー!」「知らなかった!」という驚きの反応を引き出すことが大切です。
「特別」「昔から」「この土地だけ」という言葉が、子どもの好奇心を最も刺激します。
【ステップ②:触れる】五感を使って観察する
調理する前の野菜を、子どもに渡してみてください。
- 「のらぼう菜の茎、触ってみて。思ったより柔らかくない?」
- 「土の匂いがするかな?この泥は、農家さんが一生懸命育てた証拠だね」
- 「この野菜、どんな色してる?春の色だね」
スーパーのパック詰めではなく、泥付きの野菜なら、より強く「生き物」であることを実感できます。
【ステップ③:食べる】昔の人の気持ちを想像する
食卓に出すとき、仕上げの言葉をそえます。
NG例:「これ、体にいいから食べなさい」 → 子どもには「美味しくないけど我慢して食べるもの」と受け取られがち
OK例:「昔の人も、春にこの野菜が採れると『やっと春が来た!』って喜んで食べたんだって」 → 「へぇ〜」という興味から、自然に口に運びたくなる
「苦い」と感じても、「これが昔の人を助けた味なんだね」と捉え方が変われば、それは発見の体験になります。
親子で作ろう!多摩の簡単郷土料理アレンジ

本格的な郷土料理はハードルが高いですが、現代風にアレンジすれば簡単で、子どもも食べやすくなります。
【春の味】のらぼう菜の「ふりかけごはん」
大人向けのおひたしをそのまま出さなくて大丈夫。子ども仕様にアレンジしましょう。
材料(2人分):
- のらぼう菜:1束
- ごま油:大さじ1
- 醤油:小さじ1
- かつおぶし:1パック
- 白ごま:大さじ1
作り方:
- のらぼう菜を細かく刻む
- フライパンでごま油と一緒にサッと炒める
- 醤油で軽く味付けし、かつおぶしと白ごまを混ぜる
- 温かいごはんに混ぜて「のらぼう菜ごはん」の完成
子どもに伝えたいポイント: 「今日のごはんは『多摩のごはん』だね。昔から多摩で食べられてきた、特別なごはんだよ」
【通年OK】八王子風「具だくさんうどん」
材料(2人分):
- うどん(乾麺でもOK):2玉
- 油揚げ:1枚
- 長ネギ:1/2本
- 小松菜:2株
- 出汁:400ml
- 醤油・みりん:各大さじ1
作り方:
- 鍋に出汁を沸かし、醤油・みりんで味を調える
- 油揚げ、長ネギ、小松菜を食べやすい大きさに切って煮る
- うどんを茹でて器に盛り、温めた具材と出汁をかける
子どもに伝えたいポイント: 「八王子には昔からうどん屋さんがたくさんあるんだよ。織物を作る職人さんたちが、忙しくてもさっと食べられるうどんが大好きだったからなんだって」
【冬の味】すいとん風「おだんごスープ」
材料(2〜3人分):
- 小麦粉:100g
- 水:50ml程度
- 大根・人参・ねぎ:適量
- 出汁:500ml
- 味噌:大さじ2
作り方:
- 小麦粉に水を加えて練り、小さく丸める
- 野菜を小さめに切って出汁で煮る
- 野菜が柔らかくなったら小麦粉の団子を入れる
- 味噌を溶き入れて完成
子どもに伝えたいポイント: 「スープの中に『おだんご』がかくれてるよ。いくつ見つけられるかな?」
「食べられた!」が自信になる

野菜嫌いの克服は、一朝一夕にはいきません。でも、「この野菜は食べられた」という小さな成功体験が、子どもの自信になります。
「のらぼう菜は食べられる子」になる
「ピーマンは嫌いだけど、のらぼう菜は食べられる」
そんなふうに、子ども自身が自分を認識できることが大切です。そして、「のらぼう菜が食べられたなら、次はこれも食べられるかも」と、少しずつ世界が広がっていきます。
「野菜全般が嫌い」ではなく、「〇〇は食べられる」という肯定的な自己認識が、次のステップへの扉を開きます。
がんばりすぎない「多摩の食育」の楽しみかた

ここまで読むと、「あれもこれもやらなきゃ」と思えてしまうかもしれませんが、実は大切なのは「頻度」ではなく「記憶」です。
年に数回の「特別メニュー」で十分
多摩の郷土料理を、毎週のように作る必要はありません。
- 春に1回、「のらぼう菜ごはんの日」
- 冬に2回、「あったかすいとんの日」
- 秋に1回、「多摩川梨のデザートの日」
そんなペースでも、子どもの記憶にはしっかりと残ります。
「あの季節になると、うちではいつも〇〇を作ったよね」——それだけで、立派な「ふるさとの記憶」になります。
「一品だけ」から始めてみる
いきなり献立を全部変える必要はありません。いつもの食卓に、多摩の郷土料理を「一品だけ」追加するところから始めましょう。
それだけで、「今日は特別な日」という雰囲気が生まれ、子どもも「ちょっと食べてみようかな」という気持ちになりやすくなります。
食卓から、子どもの「ふるさと」をつくる

地元の野菜を食べ、地元の歴史を知ることは、「自分はこの土地に根付いている」という安心感や自己肯定感を育てます。
「八王子の野菜って美味しいんだよ」と語れる子に
子どもたちが大人になったとき、こんなふうに思い出してくれたら嬉しいですよね。
「そういえば、子どもの頃、春になるとママが『のらぼう菜』って野菜を出してくれたな」 「八王子って、うどんが美味しい町だったな」
食べ物の記憶は、ふるさとの記憶です。
地元で育つことの豊かさを実感する
都心から少し離れた八王子だからこそ、生産者の畑がすぐそばにあります。直売所で農家さんと話したり、収穫体験に参加したり。
スーパーで買うだけでは得られない、「食べ物がどこから来るのか」を肌で感じられる環境があるのです。
最後に:「食べなさい」より「一緒に知ろう」

いかがでしたか?
食育は、「野菜を食べさせること」だけではありません。「なぜこの食べ物があるのか」「誰がどうやって作っているのか」を一緒に知ることも、立派な食育です。
完璧な郷土料理を作らなくても大丈夫。まずは、今週末の食卓に、多摩の食材を「一品だけ」加えてみる。そして、「これはね…」と、ほんの少しだけ、その食べ物の物語を話してあげる。
それだけで、子どもの目には、いつもと違う輝きが宿るはずです。
がんばりすぎなくていい。「一緒に知る」ことが、最高の食育です。
この「自然派ライフ」では、これからも八王子・三多摩エリアの豊かな食文化や、子どもと一緒に楽しめる暮らしのヒントをお届けしていきます。
地元の伝統野菜や、生産者さんの想いを知ることで、毎日の食卓が少しずつ豊かになっていく。そんな「ちょうどいい」自然派ライフを、一緒に楽しんでいきましょう。
そして、もし「地元の新鮮な野菜を、もっと手軽に手に入れたい」「物語のある食材に出会いたい」と思ったら、私たちが信頼している生産者さんの野菜も、ぜひ一度試してみてください。
泥付きの野菜には、スーパーでは出会えない発見と、子どもたちの「へぇ〜!」がたくさん詰まっていますよ。
今日も、あなたらしい「心地よい選択」を。子どもたちの「美味しい!」が、明日の食卓を照らしますように。